がんの種類と治療

婦人科がん (子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん)

婦人科がん

婦人科領域のがんには子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がんなどがあり、これらについてご説明します。当院産婦人科で行われている治療の患者数(症例数)、進行期別症例数、手術、化学療法、放射線治療症例数については別記の図表をご参照下さい。


第一産婦人科部長 水野公雄

子宮頚がん

子宮頚がんとは?

子宮は女性の骨盤の膣の奥に位置する臓器です。子宮はその出口に近い部分(頸部)と奥の部屋のようになっている部分(体部)に分けられます。子宮頸部の上皮にできたがんを子宮頸がん、体部にできたがんを子宮体がんといい、両者を含めて子宮がんと呼びます。
 子宮頸がんは最近、性交渉で感染するヒトパピローマウィルス(HPV)がおもな原因といわれており、HPVが持続的に感染した人の細胞の遺伝子に異常が起こり、子宮頸部の上皮ががん化すると考えられています。子宮頸がんには扁平上皮がんと腺がんの2種類があり、扁平上皮がんではその前がん状態である子宮頸部異形成(軽度、中等度、高度の3段階に分かれる)を経て、上皮内がん、浸潤がんへと進んでいくと考えられます。HPV100種類以上の型が知られており、その中のごく一部の型ががん化を起こしやすいとされています。子宮頸がんの好発年齢は3040歳代で、その罹患率は全体としては減少傾向にありますが、最近では若い20歳代の患者さんが増加する傾向にあります。

子宮頚がんの症状、診断

子宮頸がんの主な症状は月経以外の不正な性器出血や帯下(おりもの)の増加です。しかし、初期の場合にはこのような症状は出現しにくく、無症状か性交時(または直後)の性器出血程度にとどまることもあります。このような時期にがんを発見する方法として子宮頸部細胞診検査があります。これは自治体などで行われている子宮がん検診と呼ばれるもので、この細胞診で異常の結果が示されると、がんの疑いとして精密検査が必要となります。精密検査は、コルポスコープという拡大鏡によって、子宮頸部を詳細に観察し、異常を疑う部分の組織を一部採取して病理検査を行います。この検査でがんが発見されれば、次は病変の広がり具合を調べていきます。広がり具合を調べることは、適正な治療法を選んでいく上でとても大切なことです。
 解剖学的に子宮はほぼ骨盤の中央に位置します。子宮の前方には膀胱があり、後方には直腸が接しています。また子宮の下は膣につながり、両側方は靱帯というもので骨盤の骨につながっています。子宮頸がんが初期の状態なら子宮頸部にとどまっていますが、がんが進行するにつれて次第に子宮の周囲に浸潤して広がっていきます。
 この広がり具合を調べるために、内診のほか、超音波検査、MRI検査や膀胱鏡、直腸の検査(注腸、大腸内視鏡など)が行われます。また、がんは血液やリンパの流れにのって、がん病巣と直接接していない身体の他の部位に広がることがあります。これをがんの転移といいます。この転移を調べるためには、X線撮影、CT検査、PET検査などがあります。これらの検査により、がんの広がりを診断し、適正な治療法を選んでいきます。

子宮頚がんの治療

子宮頸がんの治療には手術、放射線、抗癌剤による化学療法が行われますが、初期の子宮頸がんは通常手術で治療されます。子宮頸部異形成や上皮内癌、微小浸潤癌など初期の子宮頸がんは、若い女性に発症しやすく、今後出産する可能性があるため子宮を温存しておきたい場合もあります。そのような場合には子宮頸部の一部を切除する子宮頸部円錐切除術が行われます。これはお腹を切ることなく、電気メスやレーザーなどの道具を使って子宮頸部の一部を切り取り、病変の深さや広がりの程度をよく調べる検査と治療を兼ねた手術です。上皮内癌などの初期の病変であれば、この円錐切除術を行い、あとは経過観察ということも可能ですが、浸潤癌の場合は原則として子宮を摘出する手術が必要となります。子宮頸がんの開腹手術は、浸潤の程度により準広汎子宮全摘術や広汎子宮全摘術という手術が行われます。広汎子宮全摘術は子宮を周囲の組織や膣壁をふくめて広く摘出する手術で、準広汎子宮全摘術はそれよりも少ない範囲を摘出する術式です。がんはリンパの流れに乗って転移を起こしやすいため、骨盤の中のリンパ節も併せて摘出します。
 子宮頸がんが大きい場合や周囲に浸潤しているため手術が困難な場合は、術前に抗がん剤を用いた化学療法を行い、がんを縮小して手術を行うこともあります。これを術前化学療法と呼びます。
 また、がんが進行していて手術で摘出できない場合や、高齢であるためや他の病気などの理由で手術には耐えられない患者さんには、手術の替わりに放射線治療が行われます。放射線治療は身体の外から放射線を照射する外部照射と、膣の側から子宮頸管の中に放射線を出す線源を挿入して治療する腔内照射があります。手術の替わりに放射線治療を行う場合には、通常両者を併用します。また最近では、少量の抗がん剤を放射線治療時に併用して治療効果を高めることが図られます。子宮頸がんでは特に扁平上皮がんという種類で抗がん剤も有効である場合が多く、進行がんや再発がん治療でよく使用されます。
 当院では、上に述べたような治療を日本婦人科腫瘍学会の子宮頸がん治療ガイドラインに則って行っています。

子宮体がん

子宮体がんとは?

子宮の奥の部屋のようになった子宮体部の内側の粘膜に発生するのが子宮体がん、その多くは子宮内膜に発生するので子宮内膜がんとも呼ばれます。子宮内膜はホルモンの影響を受けて毎月周期的に自然にはがれ、月経となります。この子宮内膜が異常に増殖し、がんになったものが子宮体がんです。最近子宮体がんには女性ホルモンのひとつ、エストロゲンの産生が増えすぎて子宮内膜が過剰増殖しておこるものと、エストロゲンとは無関係に発症するものがあることが分かってきました。前者はタイプ1の子宮体がんといわれ、女性ホルモンのバランスがくずれ、エストロゲンが過剰な状態となり、子宮内膜が過剰に増殖して「子宮内膜増殖症」と呼ばれる状態になり、さらに進行して子宮体がんになると考えられています。タイプ1子宮体がんが閉経前後の比較的若い人に多いのに対して、後者は閉経後の高齢者に多く、タイプ2の子宮体がんと呼ばれています。

子宮体がんの症状、診断

子宮体がんでは早期から不正な性器出血を起こすことが多く、あるいは帯下の量や性状の変化により発見される場合もあります。子宮体がんの診断には子宮内膜の細胞を採取して調べる子宮内膜細胞診が行われます。この細胞診検査で陽性または疑陽性の結果が得られたときは、子宮内膜生検によって子宮内膜の組織を採取してがんかどうかの診断をつけます。子宮体がんと診断がつけば、次はCTMRI, PET検査、超音波検査などにより、その広がり具合を調べます。子宮体がんは頚がんのように骨盤壁に向かって広がっていくばかりでなく、子宮の中が卵管を通じて腹腔内とつながっているために腹腔内にがん細胞がこぼれて広がっていく場合もあります。子宮体がんのリンパ節への転移も起こりますが、これは頚がんに比べて広い範囲のリンパ節に起こりやすいことが知られています。

子宮体がんの治療

子宮体がんの治療は手術が最も重要であるとされています。手術で単純子宮全摘術、準広汎子宮全摘術または広汎子宮全摘術により子宮を摘出し、同時に卵巣も摘出します。これは、子宮体がんは前述のように卵巣から出るエストロゲンの作用により増殖するため、再発を防ぐ目的があります。さらにリンパ節も摘出しますが、子宮体部からのリンパの流れは、子宮頚部からと同様の骨盤壁へ向かい骨盤内の血管周囲のリンパ節へ到達する経路と、卵巣の血管に沿って大動脈周囲のリンパ節の方へ向かう経路の二つがあり、骨盤内だけでなく大動脈周囲のリンパ節も摘出することが必要と考えられてきました。しかし、大動脈周囲のリンパ節までの摘出術は患者さんの身体に及ぼす影響も大きいので、最近では転移の可能性がきわめて低い場合には、大動脈周囲のリンパ節の摘出は行われなくなってきました。当院では術中に摘出した子宮のがんの広がりを病理検査で調べて、リンパ節摘出の範囲を決定しています。
 また、子宮体がんは比較的早期に発見されることが多いため、進行していない早期の患者さんに対しては、腹腔鏡や内視鏡手術支援装置(ロボット)などを用いた低侵襲の手術が行われるようになってきてました。当院でもこれらの手術を積極的に行っており、適応のある患者さんには提案させて頂いております。子宮体がんは手術だけで完治する場合も多いのですが、リンパ節転移が見つかるなど進行していたときには、再発を予防するために術後治療が必要となります。
 子宮体がんの術後治療には、主として抗がん剤を用いた化学療法が行われますが、化学療法に耐えられないような高齢の患者さんには、放射線治療が行われることもあります。化学療法は現在では、卵巣がんの治療にも使用されるタキサン系薬剤と白金製剤の組み合わせの治療を中心として行われます。
 また将来出産の可能性のある若い女性の患者さんでは、子宮体がんが発見された後も子宮温存を希望される場合があります。子宮体がんの子宮温存治療は、子宮内膜の定期的な全面掻爬術とホルモン治療で行われます。その対象となりうるのは、子宮体がんの前がん状態である異型子宮内膜増殖症か、類内膜腺がんという組織型の高分化型で、子宮内膜内の病変で子宮筋層内への浸潤を認めない予後の良いタイプに限られます。しかし、この治療でがんが消えない場合は手術が必要となります。また、子宮を摘出せずに残すことによる再発のリスクが高いことを患者さんご自身が充分に理解されていることが必要です。
 当院では、日本婦人科腫瘍学会の子宮体がん治療ガイドラインに則って、上記の治療を行っています。

卵巣がん

卵巣がんとは?

卵巣は排卵をしたり、ホルモンを産生したりと非常に複雑な機能を持った臓器であるため、そのがんも非常に多種類のものができます。大きく分けると、卵巣の表面の上皮細胞からできる卵巣上皮性がんと1020歳代の若い女性に好発する卵巣胚細胞性腫瘍に分けられます。卵巣がんの大部分は上皮性がんと呼ばれるもので、これがさらにいろいろな種類の組織型に分かれ、悪性度もさまざまなものがあります。卵巣がんは50歳代が好発年齢ですが、最近は3040歳代の発症が増えています。卵巣は腹腔内に露出するかたちで存在しており、周囲にさえぎるものが少ないために、卵巣がんは大きな腫瘍となってから自覚されるか、腹腔内に広がって腹水が貯まってから発見されることが多くなります。

卵巣がんの症状、診断

卵巣がんの自覚症状は初期の状態では出にくく、お腹が膨れてきたなどの症状で発見されるため、初診時にすでに進行した状態であることが多いのが現状です。進行すると腹腔内にがんがばらまかれた状態になり、腹水が貯まったり、腸の動きを妨げて食事がとれなくなったりしてきます。また、腫瘍(がん)が比較的小さいときは卵巣を支えている靱帯を軸にして捻れることがあり、その場合には激しい腹痛を起こします。これを卵巣腫瘍の茎捻転といい、腹痛のために緊急手術となって、はじめて卵巣がんと分かることもあります。
 卵巣は外から細胞や組織を一部採ることができない臓器であるため、その確定診断をつけるためには手術が必要となります。しかし、がんが進行して腹水や胸水が貯まっているときにはその貯まった水の一部を採取して細胞を調べることにより、手術をしなくても卵巣がんであろうという診断をつけることはできます。また血液検査で腫瘍マーカーを測定することによりがんの診断の助けにすることができます。腫瘍マーカーは卵巣がん自体がいろいろな種類に分けられるため、がんによって値が高くなる腫瘍マーカーが変わりますが、CA125CA19-9CEAAFPなどのマーカーが役立つことが知られています。卵巣がんは腹腔内ばかりでなく、肺など全身にひろがりやすく、その広がり具合を調べるにはX線撮影やCTMRI,PET検査、超音波検査などが必要です。

卵巣がんの治療

卵巣がんの治療は手術と抗がん剤による化学療法の組み合わせにより行われます。まず、手術で腫瘍を摘出して術中に迅速病理検査という検査に提出し、がんの診断が下れば、卵巣がんの治療上必要な手術を追加します。しかし、前述のように早期に腹腔内に広がりやすいため、手術時すでに腹腔内のいたるところにがんが広がっており、摘出不能ということも稀ではありません。その場合は腫瘍の一部を摘出してがんの診断をつけるに止めます。卵巣がんの根治手術は単純子宮全摘術と両側の卵巣・卵管摘出術、大網(胃と大腸の間にカーテン状に垂れ下がっている、脂肪と血管からなる臓器)切除術、骨盤および大動脈周囲のリンパ節の摘出術からなりますが、状況により可能な範囲にとどめて化学療法の後に再度手術することもあります。また、がんが片側の卵巣に限局していて他への広がりがなく、悪性の度合いが低い場合には、片側の卵巣・卵管を摘出するだけでよい場合もあり、若い女性ではその後の分娩も可能となります。
 また、卵巣がんは抗がん剤が有効ながんとして知られています。手術でがんが摘出できないほど進行していた場合でも抗がん剤による化学療法によりがんが縮小し、後日再手術でがんが摘出できるようになることは稀ではありません。卵巣がんの化学療法は現在ではタキサン製剤と白金製剤の組み合わせで行われるのが世界的な標準治療となっています。また、最初に進行した状態で見つかることが多いために再発することが多いのですが、最近は抗がん剤の開発が進んだおかげで化学療法により、長期に生存できる可能性があります。
 当院では、日本婦人科腫瘍学会の卵巣がん治療ガイドラインに則って治療していますが、再発後の長期生存例もかなり多くなってきているのが最近の特徴です。

最近の婦人科がんの進歩

婦人科がんの治療は、最近10年ほどで大きく変わってきました。

 手術では、子宮体がんや子宮頸がんに対して腹腔鏡下手術やダ・ヴィンチと呼ばれる内視鏡手術支援装置(ロボット)が使用されるようになり、当院でも前述したように、子宮体がんを中心に実施しています。これらの手術は患者さんの術後の負担を軽くすることができ、入院期間を短くするなどのメリットがあります。手術対象となるのは比較的初期の患者さんであるため、適応となる場合はご提案させていただきます。
 また、家族性腫瘍である遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診断、治療に関しても、遺伝カウンセリング外来と連携して積極的に取り組んでおりますので、ご相談ください。

 

がん薬物療法においても、新しい変化が生まれてきました。

 これまで卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がんの術後治療や術前化学療法には、いろいろな抗がん剤が使用され、治療成績の向上に役立ってきました。しかし、抗がん剤治療だけで再発したがんを治すことは容易ではないことも明らかとなり、特に再発する頻度の高い進行卵巣がんの治療において、治癒よりも長期生存を目標とした分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しい薬剤が登場し、治療に使用されるようになってきました。。
 分子標的薬ベバシズマブは、進行卵巣がん、再発卵巣がん、進行子宮頸がんに保険適応があり、広く使われています。一方、免疫チェックポイント阻害剤は、ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤であるオラパリブが再発卵巣がん、ニラパリブが進行卵巣がん、再発卵巣がんに対して保険適応があります。これらの薬剤は、がん遺伝子であるBRCA1/2遺伝子や相同組み換え修復遺伝子(HR)の変異がある場合に、より有効であることが知られており、遺伝子検査を行うことにより適した対象を明らかにすることができます。
 今後も新しい薬剤の登場が予想されており、患者さんそれぞれに対する個別化治療への方向へ進んでいくと思われます。

 

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日本赤十字社 愛知医療センター