腎臓内科での検査・入院治療に関して
腎生検の流れ
当院では月曜日または水曜日に入院し、翌日に腎生検をおこないます。入院期間は約1週間程度となります。検査前に止血剤の点滴や尿道カテーテル留置をします。検査中はうつ伏せとなり、超音波で腎臓の位置や形を見ながら検査をすすめます。局所麻酔をした後、直径約1.2mmの生検針を刺し組織を採取します。検査後は仰向けになり翌朝までベッド上安静とすることで出血を予防します。結果は約2週間程度で判明するため、退院後に結果を説明いたします。
免疫抑制療法の実際
免疫抑制薬は体内で起こっている過剰な免疫反応や炎症反応を抑える薬です。使用中は手洗いうがい、人混みを避けるなど感染予防対策が必要です。免疫抑制療法はステロイドが中心薬剤となりますが、ステロイドだけでは効果が乏しい場合にその他の免疫抑制剤を一緒に使用して治療効果を高めたり、副作用によりステロイドを減量しなければならない場合などに使用したりします。
- ステロイド・・・経口投与が基本ですが、活動性の高い症例やIgA腎症に対してパルス療法と呼ばれる高用量ステロイドを注射で投与することもあります。多毛、満月様顔貌、耐糖能異常、白内障、骨粗鬆症など種々の影響が出る可能性もありますが、疾患、薬の量、期間などによりさまざまであり、それぞれ対策方法が確立されています。
- カルシニューリン阻害薬:シクロスポリン、タクロリムス・・・T細胞性免疫を抑制します。採血で血中濃度を測定し適切な投与量を調整します。血圧上昇、腎障害、多毛、耐糖能異常などが出現することがあります。グレープフルーツなどの柑橘類、ハーブ茶、他の薬剤との飲み併せで血中濃度が変化する場合があるので注意が必要です。
- 代謝拮抗薬:アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン・・・T細胞やB細胞性免疫を抑制します。骨髄抑制、肝機能障害、下痢などの症状が出現することがあります。
- シクロホスファミド・・・DNA合成を阻害して細胞の増殖抑制作用を示します。アルキル化薬に分類され抗がん剤として使われることもあります。経口や注射で投与され、骨髄抑制、性腺機能障害、悪性腫瘍などに注意が必要です。
- リツキシマブ・・・CD20陽性と呼ばれる特定のB細胞を標的とする分子標的治療薬です。注射で投与します。Infusion reactionと呼ばれる投与後から24時間以内にあらわれる発熱や悪寒などの副反応がみられる場合があり、初回は入院で行います。ワクチンの効果が減弱する恐れがあり、リツキシマブ投与の4週間前までにワクチン接種が推奨されます。
慢性腎臓病への対策(外来CKD療養相談・入院CKD学習)
慢性腎臓病は腎不全に移行する可能性があり、当院では早めの対策を目指しています。外来において、腎臓病療養指導士や管理栄養士から説明を受けていただいたり、入院して24時間の血圧の変化を調べたり、病棟薬剤師から服薬管理の方法を聞いていただいたりしています。これらを通じて、腎臓の働き、腎臓に良いこと悪いこと、普段飲んでいる薬、日々の食事や日常生活で気をつけることなどを理解しておくことが大切であり、きちんと管理することで腎不全への進行を抑制することができます。また、心臓病や脳卒中などの心血管病も起こしやすいので、それぞれの専門の診療科と相談しながら、腎臓の機能を少しでも守ることを目指します。
腎代替療法の選択、治療に関して
腎代替療法には大きく分けて透析(血液・腹膜)と腎移植があります。当院では腎代替療法選択外来において、腎代替療法専門指導士による情報提供を行っています。それぞれ特徴があり、どの治療法が合っているか相談した上で選択することが可能です。
- 血液透析を行うには「シャント」という透析用の血管が必要です。当院では通常2泊3日の入院とし、局所麻酔でシャント造設術を行っています。また、血液透析を始める際は入院し、透析開始に伴う症状やシャント不良などがないことを確認します。導入の時点で他臓器の合併症を持つこともありますので、それぞれの専門の診療科で治療を受けながら、概ね1-2週間くらいの入院となります。
- 腹膜透析を行うにはお腹にカテーテルを埋め込む手術が必要です。手術は3-4日くらいで、腹膜透析を始める際は1-2週間くらいの入院となることが多いです。最近は夜間寝ている間に治療を行うAPD(自動腹膜透析)が利用でき、選択の幅が広がっています。
- 腎移植については、当院では2018年から生体腎移植が始まっており、希望される際は手術を執り行う泌尿器科にも受診していただきます。術前は腎移植ドナー/レシピエントの検査が順次進められ、術後には移植腎生検を含めた長期管理を、関連する診療科と連携し行っていきます。
当科で取り扱う主な疾患
IgA腎症
腎臓の糸球体に異常なIgAという蛋白が沈着する病気で慢性の経過を辿ります。血尿や蛋白尿,腎機能障害が主に現れますが、初期は無症状で若年者が検診で指摘されて診断に至ることも多いです。診断には腎生検を要します。ステロイドを主体とした免疫抑制療法やアンギオテンシン受容体拮抗薬,SGLT2阻害剤などを用いた薬物療法が行われることが多く、また耳鼻科と連携し扁桃摘出術を行うことがあります。食事療法や禁煙、肥満の方であれば減量が推奨されます。
ループス腎炎
全身性エリテマトーデスという膠原病に起因して腎臓に障害をきたす病態です。免疫複合体が全身の臓器に沈着し炎症を引き起こし、腎臓では腎機能障害、血尿、蛋白尿が起こり得ますが、腎臓以外にも皮膚、関節、肺、中枢神経などに病変をきたし得ます。若年女性に好発し血尿や蛋白尿でみつかることや、腎臓以外の関節痛、皮疹などから腎臓にも病変が存在することが分かる場合があります。診断には腎生検を要する場合が多く、また治療としてはステロイドにカルシニューリン阻害剤や代謝拮抗薬を加えた多剤による免疫抑制療法が行われることが多いです。血栓形成傾向が出現する抗リン脂質抗体症候群という病態を合併する方では抗血小板薬や抗凝固薬を内服することで血栓形成の予防が行われます。腎臓以外の臓器に病変を認める際には、他の診療科と連携しながら治療が行われることもあります。
血管炎症候群
全身の血管に炎症が起きる病態で、腎臓にも血管炎が起きると血尿や蛋白尿、数週の経過で悪化する腎機能障害といった所見を呈します。腎臓を主座とした血管炎の代表にはANCA関連血管炎や抗糸球体基底膜腎炎が挙がります。小型血管に血管壁に炎症がおき、腎臓の糸球体内の血管で炎症が起きることにより、諸症状が出現します。肺などの血管で炎症が起きることもあり、肺胞出血や間質性肺炎を合併し得ます。診断には腎生検を要する場合が多く、治療としてはステロイドに加えてリツキシマブもしくはシクロホスファミドといった免疫抑制剤を投与することがあります。重症の場合には、血漿交換という血液の血漿成分を除去することにより、病因となっている抗体を取り除く治療が行われる場合もあります。
慢性腎臓病
慢性腎臓病は腎機能障害が3ヵ月以上続く患者さんが当てはまり、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023年」では重症度分類が示されています。原因となる疾患は多岐にわたりますが、疾患特異的な治療に加えて、腎障害に由来するカリウムやリン酸などの電解質異常、貧血、むくみといった症状に対する治療を行います。栄養指導や透析にならないための予防の指導を並行して受けていただくことがあります。腎機能が増悪し腎代替療法が今後避けられない状態になった場合には、腎代替療法の選択を行います。
多発性嚢胞腎
腎臓にのう胞が多発し徐々に増大し、腎機能も徐々に悪化する遺伝性の疾患です。初期には症状が出現することはありませんが、嚢胞が大きくなるとお腹が張ったり、のう胞に感染を合併することがあります。治療法について、適応がある場合には、バソプレシン受容体拮抗薬という利尿薬を内服していただき、腎障害の進展の抑制を行います。適切な水分摂取や塩分を制限することも重要です。心臓弁膜症や脳動脈瘤を合併する場合があり、そういった合併症がないか検索も行います。
急性腎障害 周術期、悪性腫瘍に伴う腎障害
手術に伴う侵襲により腎機能障害が出現する場合があります。また、慢性腎臓病を有している患者さんにおいては麻酔・手術後に循環器系の合併症のリスクが高くなると報告されています。手術前に腎機能の低下を指摘された場合には、腎臓内科外来を受診いただき、適切なリスク評価と周術期の管理を他科とともに行っていきます。術後に腎機能障害が出現した際には、原因検索とともに、適切な輸液管理や原因薬剤の特定といったことを他診療科と協議検討していきます。
悪性腫瘍に対する化学療法によって腎機能障害が出現する場合や、また蛋白尿やむくみが出現するネフローゼ症候群を化学療法に伴い呈する場合があります。被疑薬の検討やその他の原因検索とともに、化学療法の継続が可能か他診療科と協議検討していきます。場合によっては、腎生検やステロイドによる免疫療法が必要となることもあります。
腎疾患の最近の動向
慢性透析患者数の推移
わが国の慢性腎不全に対する腎代替療法は9割以上血液透析が選択されています。日本透析医学会の調査によれば、2022年末の慢性透析患者数は34.7万人で、2021年までは緩徐に増加傾向であったが、2022年は減少に転じており、国民359.6人に1人が透析患者に相当する割合となっています。
導入患者原疾患割合の推移
2022年末の透析導入患者の平均年齢は、71.42歳であり年々高齢化しています。原疾患で最も多いのは糖尿病性腎症で38.7%、次いで腎硬化症の18.7%、慢性糸球体腎炎の14.0%となっています。慢性糸球体腎炎と糖尿病性腎症は減少傾向であり、高齢化に従い、腎硬化症は増加傾向を示しています。